こんにちは。
職人のたまご、奥村です。
さて、記念すべき100記事目となりました。
今回は、彫刻刀職人として6年間修業を積んできた僕が、作業をする中で実感した「技術習得のヒント」を7つご紹介します。
少しでもあなたの参考になれば幸いです。
もくじ
彫刻刀職人が考える技術習得の7つのヒント
技術習得のヒント① とりあえず、数万回やってみよう
何か技術を身につけたい場合、まずは数をこなさなければ始まりません。
それも、数十回、数百回レベルではなく、数千、数万という回数を地道にこなす必要があります。
身もフタもないと思うかもしれませんが、これが技術習得の黄金基準だと断言できます。
(写真:よしはる彫刻刀の印刀)
例えば僕の場合、よしはる彫刻刀の印刀を完璧に仕上げられるようになるまでに、92,150本もかかりました。
つまり、「92,150回同じ動作を繰り返した結果、ようやくひとつの技術を習得できた」ということです。
もちろん技術の難易度によって回数の差はあります。
しかし、「数をこなすことは当たり前のことなんだ」ということを、職人として作業をする中で強く感じました。
よく、「○○が苦手」、「○○がうまくできない」という言葉を聞くことがあります。
ですが、これはただ単純に練習量が足りていないだけかもしれません。
うまくできないからといって諦めてしまう前に、とりあえず数万回の練習を繰り返してみてはいかがでしょうか。
技術習得のヒント② 常にメモをとろう
技術を習得するにあたって、コツや感覚をメモすることはとても重要です。
なぜなら、コツや感覚的な記憶は、すぐに消え去ってしまうからです。
ひらめいた直後は「忘れるわけがない」と思っていても、数分たてば、「あれ、何だっけ?」という状態に必ずなります。
ただでさえ、コツや感覚は言葉にするのが難しいです。
せっかく掴んだチャンスが消失してしまわないように、メモをとるクセはつけたほうが絶対に良いです。
(写真:コツや感覚を発見したらすぐにメモすることが大事)
さらに、言語化することで、頭の中でぼんやりしていたものが明確になります。
今の自分がどんな感覚で作業しているのかがわかると、1回1回の動作の質が確実に上がります。
作業を一時中断してでも、生まれたてほやほやのコツや感覚をメモすることが、技術習得の近道に必ずなります。
技術習得のヒント③ コツをどんどんストックしよう
ひとつの技術の中には、細かいコツが散在しています。
その細かいコツのひとつひとつを、反復練習で見つけていくのです。
つまり、細かいコツの集合体が「技術」ともいえます。
僕自身、見つけ出したコツが脳と身体に日々ストックされていくのを感じることができました。
おもしろいことに、その日見つけたコツが次の日に役に立つとは限らないことがあります。
昨日のコツの通りに体を動かしてみても、上手くいかないことが多いのです。
しかし、そこで「このコツは役に立たない」と思って捨ててはいけません。
経験上、見つけたコツはいつか必ず役に立ちます。
実際、このコツは違うかなと思ったものが、後日やっぱり使えるコツだったということが多々ありました。
(写真:僕のコツノートには「やっぱり」という言葉が意外と多い)
コツや感覚のメモを日々書いていると、さらによくわかります。
今日ひらめいたコツが、実は以前書いた内容と同じだったことが多々あるのです。
では、なぜ「昨日のコツが役に立たなくなった」という現象が生じるのか。
おそらくですが、自分自身の技術が着実にステップアップしたからだと思います。
コツを発見した時点で、その技術は次の段階にすでに進み始めているのではないでしょうか。
つまり、「昨日の自分と今日の自分はすでに違う」ということです。
昨日と同じ感覚を目指すよりも、昨日の経験を今日に生かす感じ…。
いやはや、言葉で説明するのは難しいですね。
技術習得のヒント④ オフザボールを意識しよう
作業時間の大幅な短縮は、「オフザボール」の動きが大事です。
「オフザボール」とはサッカーでしばしば使われる用語のことで、「試合中、プレイヤー自身がボールを持っていない状態」という意味です。
僕は彫刻刀の生産数を増やすために、作業に「オフザボール」を当てはめてみました。
彫刻刀を仕上げる作業における「オフザボール」とは、「実際に手を動かしている以外の時間」を指します。
例えば、職人道具の手入れや、彫刻刀を束ねる動作など、いわゆる準備フェーズを段取りよく行うことで、手を動かしている以外の時間を短縮することができました。
(写真:彫刻刀を束ねる時間も頑張れば短縮できる)
スピードが求められる技術は、技術そのものを速くするという考えのほかに、技術以外でスピードを高めることができる可能性があるということを心の片隅に置いておくと良いかもしれません。
技術習得のヒント⑤ スランプは型ばかりではなく、本質に目を向けよう
同じ動作をずっと繰り返していると、うまくいかない時が続いてしまう、いわゆるスランプに陥ることがあります。
そんなときは、今一度、自分の技術のフォームを確かめてみましょう。
力を入れなくていいところで力んでいないだろうか。
気づかないうちに動作が速くなっていないだろうか。
逆に遅くなったりしていないだろうか。etc…
コツノートを見返しながら、今の自分の状態と照らし合わせてみることで、うまくできない原因に気づくことができます。
しかし、動作や意識を修正してみても、まだうまくいかない時が続くことがあります。
このお手上げ状態を打破するにはどうしたら良いか。
それは、今行っている動作の「本質」を考えてみることをおすすめします。
(写真:高速回転するサンドペーパーで刃を整える技術はとても難しい)
僕は以前、小丸刀の刃の形を整える際、急にうまくできなくなったことがあります。
技術メモをもとに、断片的なコツを確認しながら修正を図りましたが、良くなりませんでした。
そこで、いったん技術のことは忘れ、小丸刀の刃がどのような形に整ったら合格かを再確認してみました。
つまり、高速回転するペーパーに刃の表面を当てる際に、どのように動かしたら小丸刀の刃の形を整えられるかを考えるのではなく、完成形を強くイメージしながら手を動かしてみることにしたのです。
すると、しだいに小丸刀の形がじょうずに整えられていくようになりました。
スランプの沼にはまってしまうと、「どう動かすか」という意識にとらわれがちです。
うまくいかなくなったときは、いったん手を置いて、ゴールを再確認してみることをおすすめします。
技術習得のヒント⑥ 体の不具合に敏感になろう
作業中の体の不具合は、道具や技術の不具合から来ているものかもしれません。
僕自身、ある日突然、手のひらにマメができたことがありました。
今までは何ともなかった手のひらが、急にズキズキと痛みだしたのです。
なぜ急にマメができたのか。
原因はヤットコの握りすぎでした。
必要以上にギュッと力を入れ続けて作業をした結果、手のひらにマメができました。
ではなぜ、ヤットコを握りすぎてしまったのか。
それは、ヤットコの挟む部分にすき間が開いていたからでした。
(写真:ヤットコの挟む部分が経年劣化でくぼみができてしまっている)
この状態で彫刻刀の刃を挟んでも、ゆるゆるで安定しません。
つまり、無理やり安定させるためにヤットコを強く握ってしまっていたということです。
手の平だけでなく、肩が異常に凝ったり、腰が痛くなったりすることもありました。
その場合は大抵、作業姿勢が徐々に悪くなっていったのが原因でした。
このように、体の何かしらの不具合は、作業のどこかにリンクしていることが多いです。
普段から自分の体に意識を巡らすことで、不具合をいち早く察知することができます。
そうすれば、すぐに修正をほどこすことができ、作業の質の低下を防ぐことにつながるわけですね。
技術習得のヒント⑦ なるべく近い動きの別作業を取り入れよう
今行っている作業がマンネリ化してきたら、一旦違う作業をやってみることをおすすめします。
技術習得が促されたり、新しい発見や今まで見えなかった無意識のクセが明らかになることもあります。
僕自身、全く違う作業を行うよりも、今やっている作業に近い系統のものに取り組んだほうが、得られるものが多かったです。
気分転換にもなるので、ぜひ試してみてください。
最後までお読みいただきありがとうございました。