こんにちは。
義春刃物の彫刻刀職人、奥村です。
今回は、小学生が彫刻刀で版画を彫るときの「基本的な使い方やコツ、注意点」をご紹介します。
小学校の先生の指導の参考になれば幸いです。
- 彫刻刀の種類ごとの彫り方がわかる。
- 怪我をする使い方がわかる。
- 力を入れずに彫れるコツがわかる。
もくじ
彫刻刀の使い方 完全ガイド
基本的な持ち方
(写真:鉛筆を軽く握るように持とう)
彫刻刀の基本的な握り方は「鉛筆を握るように持つこと」です。
専門的には様々な持ち方がありますが、小学生には「握り慣れた持ち方」のほうが彫りやすく、ケガのリスクを下げることにもつながります。
持ち方を指導する際の手順や注意点を、下記の記事で確認しておきましょう。
滑り止めシートを使おう
(写真:よしはる彫刻刀GXとマルイチ彫刻刀SXに付属している滑り止めシート)
彫刻刀を彫る際は、ノンスリップシートを木板に敷きましょう。
彫っている最中に木版が滑ってしまうリスクがなくなります。
彫刻刀で発生しやすい怪我のパターンのひとつとして、「不意に木版がズレた拍子に、刃が手に当たってしまう」というものがあります。
未然に防げる怪我なので、しっかり用意しておきましょう。
彫刻刀の種類と彫り方
彫るときの彫刻刀の角度
(写真:彫り始めから彫り終わりまでの刃の角度)
これから刃種ごとの使い方をご紹介しますが、大前提として、彫刻刀で彫っているときの「刃の角度」を押さえておきましょう。
②彫り進めていくと同時に寝かせていき、
③彫り終わるときは完全に刃を寝かせる。
彫り始めに刃を立てすぎると板に引っ掛かってしまうので、ほどよい角度を練習しながら見つけていきましょう。
なお、この刃の角度の動きは、「平刀、中丸刀、小丸刀、三角刀」に共通します(切出し刀以外)。
平刀の使い方
(写真:よしはる彫刻刀の平刀)
広い面を柔らかい調子で表すのに適しています。
輪郭をボカすように彫ることもできます。
(写真:両手で彫刻刀を支えると彫りやすい)
彫るときは、彫刻刀の柄を両手で支えながら動かしましょう。
それほど大きな力を加えなくても、ラクに彫ることができます。
(写真:刃の角度を意識しながら彫ってみましょう)
彫り終わりに近づくにつれて刃を寝かせていくと、きれいに木くずが取れます。
(写真:すき間を彫りたいときに便利)
三角刀や丸刀でできた溝などの余分な部分をすき取るときにも使えます。
(写真:平刀の彫り跡)
平刀は刃の面積が広いので、木板に引っかかることがあるかもしれません。
そんなときは、できるだけ刃を寝かせて、力加減を小さくして彫ってみましょう。
中丸刀の使い方
(写真:よしはる彫刻刀の中丸刀)
丸みぞの比較的太い線を彫るときや、いらない部分をすき取るときに使います。
広い面をさらうのに適しています。
(写真:持ち方は平刀と一緒)
中丸刀は彫り跡が大きいので、たくさん面を彫りたいときに重宝します。
力加減で線の太さを変えることもできます。
(写真:刃の角度に注意しよう)
刃を立て過ぎると深く彫ってしまい、板に引っかかってしまいます。
長い線を彫りたいときは、彫刻刀をやや寝かせながら動かすと、木くずが途切れずに彫れます。
(写真:中丸刀の彫り跡)
柔らかい印象の線が彫れるだけでなく、広い面を時間をかけずに彫ることができる万能型。
とても使い勝手の良い彫刻刀だといえます。
小丸刀の使い方
(写真:よしはる彫刻刀の小丸刀)
U字型の細い線を彫るときや、細かい部分をすき取るときに使います。
(写真:持ち方は平刀と一緒)
それほど力を入れなくても、スムーズに彫ることができます。
線だけでなく、小さな点や波線などの模様を彫るのにも活躍します。
(写真:刃の角度を意識してみよう)
彫り始めのときに力を加えすぎたり刃を立てすぎると、深く彫れてしまいます。
刃が引っかかることもあるので、できるだけ力を抜いて彫るようにしましょう。
(写真:小丸刀の彫り跡)
柔らかい丸線の輪郭や細かい部分の表現には、小丸刀が大活躍します。
力加減に気をつけながら彫っていきましょう。
三角刀の使い方
(写真:よしはる彫刻刀の三角刀)
V字型の細い線を彫るときや、せまい部分をすき取るときに使います。
直線や曲線、点などを表すのに適しています。
(写真:持ち方は平刀と一緒)
直線を彫るときは、ムリに力を加えなくてもスーッと滑らかに彫ることができるので、とても気持ちよく感じます。
(写真:深く彫りたいときはやや力を加える)
深く彫るとき、刃を立てすぎると引っかかりが生じてしまいます。
刃の角度の調整も大事ですが、少しだけ力を加えて、板を押さえつけるように彫ると深いV字の線を彫ることができます。
(写真:三角刀の彫り跡)
三角刀は、輪郭や細かい模様を表現する時に活躍します。
うまく彫れると気持ちよさを感じやすいので、彫る練習に最適です。
切出し刀(印刀)の使い方
(写真:よしはる彫刻刀の切出し刀)
はっきりとした輪郭や鋭い線の切れ込みを入れるときに使います。
他の彫刻刀とは使い方がやや異なるので、注意が必要です。
(写真:上の2つのパターンは大丈夫ですが、手を置く位置には細心の注意を払いましょう)
印刀の持ち方は様々ありますが、ここでは「反対の手の親指で押す」やり方をご紹介します。
反対の手の親指は、彫刻刀の柄の先端部分に当て、刃に触れないように気をつけましょう。
親指以外の手は、刃が動く方向に置かないように気をつけます。
手をパーにひらいても良いですが、危険だと感じたら指を折りたたむようにしましょう。
彫るときは、親指でゆっくり押しながら刃を動かしていきます。
(写真:まずは切れ込みを入れる)
輪郭線を彫るときは、2回同じところを彫ると良いです。
まず最初に、切れ込みを入れます。
次に、板を180度回転させて、反対方向から同じところを彫ります。
(写真:同じところを2回彫ることではっきりとした輪郭線ができる)
慣れないうちはうまく彫れないかもしれませんが、何度も彫っていくうちにコツがわかってきます。
ゆっくり慌てずに彫っていきましょう。
(写真:印刀で入れた切れ込みが歯止めの役割を果たす)
印刀で切れ込みを入れることで、他の彫刻刀で彫った際に、はみ出さなくなります。
規則的な模様を彫る際などに活躍するので、積極的に使っていきましょう。
(写真:切出し刀の彫り跡)
切出し刀は、刃先が尖っているため、取り扱いに注意しましょう。
左利きの子どもには、左利きの印刀を必ず使わせてください。
その他(大丸刀、小印刀)
(写真:大丸刀(左)と小印刀(右))
その他にも大丸刀や小切出し刀など、さまざまな刃の種類があります。
(写真:大丸刀と小印刀を使って作品の幅を広げることができます)
大丸刀でより大きな面をすくったり、小印刀でより細かな部分をすきとったりできます。
作品の幅を広げたり、より細部までこだわりたい人はぜひ使ってみてください。
彫るときの注意点
彫刻刀を持つときは、力を入れすぎない
(写真:指に力を入れすぎると気持ちよく彫れない)
鉛筆のように握るとき、指に力が入っていると彫りにくくなります。
普段鉛筆を握るよりもやや指を伸ばして持つことで、「押しながら彫る」感覚をつかみやすくなります。
刃を動かす方向に手を置かない
(写真:刃を動かす方向に手を置かない)
支える方の手が刃より前に出てしまうと、怪我をするリスクが高まります。
何かの拍子に刃を滑らせたときに、そのまま指に突き刺さってしまう可能性があります。
必ず、「刃を動かす方向に手を置いていないか」を確認するようにしてください。
自分の体の方向に刃を動かさない
(写真:子どもは多種多様な彫り方を試みようとする)
子どもは彫っていると、「こうしたらもっとうまく彫れるんじゃないか?」といろんな彫り方に挑戦しようとします。
それ自体は喜ばしいことですが、中には怪我のリスクがある彫り方をする子もいるかもしれません。
彫るときの基本は、「体の前方に向かって動かすこと」です。
間違っても自分の体側に向かって彫らないように注意が必要です。
切出し刀(印刀)の場合は、浅く彫りたいときに、手前に引くこともあります。
ですが、小学生の授業では、あくまで基本は「体の前方へ動かすこと」だと理解させましょう。
手を浮かせて彫らない
(写真:手が板から離れると不安定になる)
彫っている最中、「手は板にくっついた状態」を常に保ちましょう。
空中に手が浮いたまま彫ると不安定になり、思い通りに動かすことができません。
両手でしっかり彫刻刀を支え、手の側面や指の何本かを板に付けることで、安定して彫ることができ、怪我のリスクも小さくすることができます。
彫刻刀をケースから出し入れするときは刃を触らない
(写真:刃に直接触れるとケガをします)
意外と盲点なのが、彫刻刀をケースから出し入れする時に怪我をしてしまうことです。
特に、ケースから取り出すときに刃先に触れて取ろうとすると、指を切ってしまうリスクがグッと高まります。
確かにそのほうが取りやすいかもしれませんが、安全のために必ず柄の部分から取り出すようにしましょう。
学校に保管している彫刻刀の切れ味に注意
(写真:刃物は使えば使うほど切れ味が落ちていく)
学校に常備している彫刻刀は、経年劣化により切れ味が悪くなっている可能性があります。
子どもに使わせる前に点検することをおすすめします。
- 切れ味の確認
- 刃こぼれは無いか
- 錆びていないか
- 刃と柄の接続部がグラグラしていないか
砥石があれば、研ぎ直して切れ味を復活できます。
義春刃物では研ぎ直し依頼も受付しています。
詳しくは下記の記事をご覧ださい。
彫り方のコツ
手を板につけると、安定する
(写真:手でしっかり支えることで安定感が増す)
先ほど注意点で、「手を浮かせて彫らない」と説明しました。
手首や指で板をしっかり支えることによって、自分の思いどおりに彫ることができます。
ただし、板に手を押し付ける力が強すぎると彫りづらくなってしまうので、適度な力加減を探っていきましょう。
ゆっくり押すイメージを持つと、彫りやすい
(写真:気持ちよく彫るためのコツ)
「前方へゆっくり押し出すイメージ」で彫刻刀を動かすと、スムーズに引っ掛かることなく彫ることができます。
切れ味の良い彫刻刀は、「最初にわずかな力を加えるだけで後はスーッと彫ることができる」ので、あまり力を必要としません。
感覚的に、「自分が彫り進めていく」というよりも「彫刻刀が勝手に彫り進んでいけるように、ゆっくり押してあげる」というイメージのほうが、上手に彫れます。
すくい上げるように彫ると、力まずに済む
(写真:スプーンですくう感覚に似ている)
平刀や丸刀で彫るときに、「すくうイメージ」をもって動かすと、気持ちよく彫ることができます。
ただし、すくい過ぎると深く彫ることになり、刃が板に引っ掛かってしまうことがあります。
自分が一番気持ちよく感じる角度を、彫りながら探していきましょう。
木くずの長さにこだわろう
(写真:刃の角度、力加減が上手だと木くずが長くなる)
上手に彫れると、木くずが長くなります。
リンゴの皮むきみたいですね。
彫刻刀を初めて使う子どもたちの導入として、「どれだけ木くずを長くできるか」に挑戦させてもいいかもしれません。
木くずを途切れさせないために、刃の角度や力加減を意識させましょう。
彫り始めは力を抜こう
(写真:「いかに力を抜けるか」が上手に彫るコツ)
彫刻刀は、大きな力を加えなくても簡単に彫ることができます。
彫り始めのときに力が入りすぎてしまうと、彫り跡がいびつな形になってしまいます。
きれいな彫り跡にならないのは、もしかしたら最初に力み過ぎているからかもしれません。
彫刻刀の切れ味を信頼して、力を抜きながら彫り始めましょう。
木板を巧みに回しながら彫る
(写真:何度も回転させながら彫っていこう)
「彫刻刀は前方へ動かすことが基本」と説明しましたが、人物画などの作品には、曲線を彫る機会もたくさん出てきます。
そんなときは、ムリして体をねじって彫るのではなく、木板を回転させて刃が前方に動かせる状態を作りましょう。
「自分が動くのではなく、板を動かす」というわけですね。
おそらく、一つの作品を彫り終えるまでに何十回も板を回すことになるでしょう。
面倒に感じるかもしれませんが、安全のため、彫りやすさのためにも板をたくさん動かしましょう。
彫刻刀の授業で役立つ小学校の先生のための記事
(写真:記事の一例。指導の際に役立つ情報が満載です)
彫刻刀の使い方は様々ありますが、今回ご紹介した方法はあくまで一例です。
すべて鵜呑みにせず、授業環境や児童の理解度に応じて、指導方法を組み立てることをおすすめします。
小学校の先生が子どもに「彫刻刀の使い方や選び方」を指導する際に役立つ情報を公開しています。
詳しくは、小学校の先生のための彫刻刀講座をご覧ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。