今回は、工程⑥である彫刻刀の「仕上げ作業」について解説します。
まずは、彫刻刀の作り方の大まかな流れを確認しましょう。
工程⑤の「刃付け」で、彫刻刀に刃を付けます。
この段階では、刃先にバリ(削りかす)が残っており、まだ切れ味はありません。
そこで、工程⑥の「仕上げ」で、彫刻刀の刃に切れ味をつけるのです。
もくじ
仕上げ作業とは
(写真:バフに彫刻刀の刃先を当てる様子)
「仕上げ」とは、彫刻刀の刃先を磨く作業のことです。
刃先を磨くことにより、バリがとれて切れ味がつきます。
仕上げ作業の大きな特徴は、職人が1本1本手作業で切れ味をつけていることです。
機械化が進む現代において、創業100年にわたって受け継がれてきた技術を、職人が魂を込めて仕上げています。
仕上げ作業の風景
(写真:1本1本の彫刻刀を手作業で仕上げる職人たち)
(写真:新米職人は熟練職人の隣で作業する)
(写真:職人は1本1本の彫刻刀に技と魂を込める)
仕上げ作業のむずかしさ
(写真:熟練の技が彫刻刀に切れ味を宿す)
仕上げ作業は、機械化できないほど繊細でむずかしい作業。
職人は数年かけて技術を身につけます。
鋭い切れ味をつけるには、ただバフに刃を当てればよいというものではありません。
刃先をバフに当てる角度、時間、力加減などが重要となります。
これらがうまくできないと、鋭い切れ味がつきません。
それどころか、切れ味を悪くしてしまうこともあります。
熟練職人は日々の作業によって、刃先をバフに当てるのに一番最適な角度、時間、力加減などを感覚的に身につけています。
さらに、高速回転しているバフは布製です。
そのため、使い続けると小さくなったり、硬くなります。
熟練職人は、バフの変形に応じて、刃先をバフに当てる角度や力加減などを逐一変えているのです。
そして、彫刻刀の刃には、平刀、丸刀、三角刀のように様々な種類があります。
熟練職人は、刃の種類に応じて、バフに対する刃先の当て方を変えています。
このように、彫刻刀の切れ味は仕上げ作業の良し悪しで決まるといっても過言ではありません。
機械ではできない繊細な技術が求められる、仕上げ作業。
熟練職人は、機械に負けず劣らず、切れ味鋭い彫刻刀の刃を量産することができます。
職人のたまごと熟練職人の技術の差
すべての彫刻刀が完璧に仕上げられるようになるまで、数年かかるといわれています。
実際に、修業中の職人のたまごと熟練職人とでは、歴然たる技術の差があります。
例えば、平刀の刃先をバフに当てると、下の写真のように白い跡がつきます。
熟練職人(写真左)は早いスピードで仕上げても、刃先を正確にバフに当てることができます。
しかし、職人のたまご(写真右)はスピードを意識すると、刃先がうまくバフに当たりません。
(写真:左が熟練職人、右が職人のたまごが仕上げた平刀の一例)
したがって、職人のたまごは、まずはゆっくり正確に刃先をバフに当てることを覚えます。
正確にバフに刃先を当てられるようになったら、次は量産のためにスピードを早めていきます。
技術を確実に継承するために、作業中、職人のたまごの隣には常に熟練職人がついています。
職人のたまごは、熟練職人に教えてもらいながら技を覚えていくのです。
よしはる彫刻刀の仕上げ
(写真:よしはる彫刻刀)
よしはる彫刻刀は、通常の仕上げ作業のほかに、ひと手間加えられています。
通常は、バフに刃先を当てるのみですが、よしはる彫刻刀はサンドペーパーで刃の表面を整えてから、バフで刃先を磨きます。
(図:通常の彫刻刀の仕上げ方とよしはる彫刻刀の仕上げ方のちがい)
サンドペーパーで刃の表面を磨く作業は、とても難しいため、高度な技術が要求されます。
高速回転するサンドペーパーに少し当たっただけで刃が削れ始めるため、瞬時の判断が大切になるのです。
(写真:サンドペーパーで刃の表面を磨く様子)
職人はサンドペーパーに刃先を当てた瞬間に、力加減、角度、削る速度などを計算し、刃の表面を整えていきます。
こうして職人によって整えられた刃は、きめ細やかできれいな表面に仕上がるのです。
まとめ
(写真:熟練職人に指導を受ける新米職人)
仕上げ作業とは、「切れ味をつける重要な工程」であり、機械ではできない、職人の技術力が要求される繊細な作業です。
熟練の技を身につけた職人が魂を込めて仕上げた彫刻刀は、最高の切れ味を誇ります。
これからも、創業100年の技と魂を絶やすことなく、しっかりと次世代の職人を育てていきます。
こうして仕上げられた彫刻刀の刃。