「職人のたまご」として働いた6年間を振り返ります

こんにちは。

職人のたまご、奥村です。

 

彫刻刀職人として働いて6年。

体感としては、あっという間でした。

そこで今回は、そんな6年を振り返ってみようと思います。

 

1年目(2016年)

(写真:義春刃物の工場)

 

これまで全く無縁だった製造業の世界に飛び込むということで、正直、めちゃくちゃビビっていました。

シンプルな家庭用机ですら組立てに4時間かけてしまうほどの工作音痴な僕が、はたしてうまくやっていけるのだろうか。

そんな不安を胸に抱えながら迎えた、入社初日の朝。

忘れもしません、あのベルの音を。

 

朝8時、初めて見る職人の姿や道具に見入っていると…。

 

「ジリリリリリリリ!!!」

 

就業開始のベルが、けたたましく鳴り響いたのです。

火災報知器が作動したのかと勘違いするほどの爆音で、本当に驚きました。

まさかのベルの音で怖じ気づいたのは、ここだけの話…。

 

職人の印象

(写真:義春刃物の職人は若い人も多い)

 

当時、僕の中での職人の印象は、昔気質で話しかけづらく、ピリピリした雰囲気なのかなと思っていました。

けれど、実際の現場は全然印象が違い、若い人が多く、和やかな雰囲気でした。

 

それでも、いざ仕事となれば空気が変わり、皆さん黙々と目の前の作業に没頭します。

その手さばきの滑らかさは見ていて惚れ惚れするもので、「いつか自分もこんな風になりたい」と思わせてくれるものでした。

 

いざ、職人の道へ

(写真:入社1年目の頃。髪が長い)

 

こうして始まった「職人のたまご」としての修行の日々。

先輩職人に教えてもらいながら、実際に手を動かしていきます。

 

しかし、「彫刻刀を仕上げる技術」は思った以上に難しく、最初の1年はとても苦労しました。

特に、刃の形を整えるペーパー作業がめちゃくちゃ難しい。

 

(写真:高速回転するサンドペーパーで刃の形を整える作業)

 

先輩職人は一発でキレイに整えていますが、僕は何度もペーパーに当て直さなければなりません。

最悪の場合、当てすぎて原型をとどめなくなったりもしました。

それでも根気よく、先輩職人の技を見ながら練習を積み重ねていきました。

 

2年目(2017年)

たくさん練習した甲斐があって、危なげながら少しずつ上達していきました。

もちろん完成度としてはまだまだ。

ですが、できるようになってくるとやはり嬉しいものです。

 

任される刃の種類も増えてきて、やる気に満ち溢れていました。

コツもやるたびに見つかり、体の中に蓄えられている感触もありました。

 

万事、順調。

そう思いきや、新たなる壁が出現しました。

 

バフを整えるのに苦戦

(写真:バフは使えば使うほど硬くなる)

 

彫刻刀職人の必需品、バフ。

このバフの扱いが、とてもとても難しい。

 

何が難しいかというと、バフを丁度よい柔らかさに保つことが大変なのです。

バフはその特性上、使えば使うほどカチカチに固まっていきます。

硬い状態で彫刻刀の刃を当てても、切れ味の良い彫刻刀になりません。

 

(写真:1年目の頃のバフ。汚すぎる…)

 

そこで定期的にバフをほぐすのですが、そのほぐし加減の調節がとても難しい。

柔らかすぎても、硬すぎてもダメ。

刃の切れ味が一番良くなるようなバフの状態にすることが重要です。

 

(写真:6年たってようやくうまくできるようになりました)

 

2年目は、ひたすらバフと向き合いましたが、結局、バフを納得できる柔らかさにできるようになったのは、6年目に入ってからでした。

ずいぶん長いこと悪戦苦闘してきましたが、あきらめずに追究し続けてよかったです。

 

日常生活での変化

(写真:普段当たり前に使っている物が尊く見える)

 

彫刻刀職人として「ものづくり」の大変さを味わってきたことで、あらゆる物を大切に扱うようになりました。

シャーペン、服、食器、机、椅子、パソコンなど、どんなものでも。

世の中にあふれる物は、たとえ機械で全自動化するにしても、必ず人の手が加えられています。

原材料の状態から物が生まれるのは、とても神秘的です。

今まで当たり前のように使っていた物は、じつはありがたいものなのだと実感しながら日々を過ごすようになりました。

 

3年目(2018年)

 

2018年は、探求心をフル回転させていたような年でした。

少しずつできるようになってきたことで、もっと上を目指したいという欲が湧き上がってきました。

そこで、自分なりの試行錯誤を活発に行うようになります。

 

(写真:作業スピードを高めるために束ね方の実験を行った)

 

作業スピードを高めるために実験をしてみたり、切れ味などの質にこだわってみたり。

彫刻刀職人としてレベルアップするにはどうしたら良いかを常に考えてきました。

もちろん、技術的にはまだまだ未熟で、圧倒的な練習量が必要なのは1年目と変わりません。

ですが、これまでのような受け身ではなく、能動的に取り組もうとしてきた姿勢は、職人として成長できたのではないかと思います。

 

4年目(2019年)

(写真:職人の必需品「コツノート」)

 

作業にも慣れ、心にゆとりを持てるようになりました。

しかし、ここで慢心しないために、一度基本に返ることにしました。

すると、今まで気づかなかった無意識のクセが偶然見つかったのです。

そして、すぐにクセを修正したことで、切れ味を一段と鋭くすることができました。

 

無意識のクセが他にもまだあるかもしれないと思い、コツノートに感覚をたくさんメモしました。

おもしろいことに、日々メモを取り続けていると、同じコツや感覚を書いている日が多々あることに気づきました。

その感覚やコツこそが、技術をスムーズに習得するヒントとなっていると考えられます。

 

スランプ脱出の必需品

(写真:感覚を言葉にするのは結構難しい)

 

ある時、小丸刀の刃の形を整えるのがうまくできなくなってしまいました。

少し前までは何事もなくできていたのに、突然スランプに陥ったのです。

そこで、原因を究明しつつ、あれこれ考えながら作業を続けてみます。

すると、ようやくスランプ脱出の糸口となる感覚をひとつ見つけることができました。

 

(写真:メモを書き続けると共通点が見えてくる)

 

「この感覚を忘れないうちにメモしよう」

そう思い、コツノートを開いてみて驚きました。

なんと、過去に同じ感覚をすでに書いていたのです。

拍子抜けしたとともに、ちゃんとメモを取っててよかったと安堵したのを覚えています。

スランプに陥ったときは、コツノートを見返すことが重要ということを認識した出来事でした。

 

5年目(2020年)

(写真:まさか消しゴムが技術習得のヒントになるとは思いませんでした)

 

5年目は技術習得のコツを多くつかむことができた年になりました。

常にアンテナを立てていると、身近にある物が上達のヒントに見えてきます。

消しゴムの消し方やパズルから技術習得のヒントを見つけたときは、我ながら面白いと感じました。

 

不安定な時代を生き抜く

 

2020年は新型コロナウイルスが猛威をふるいました。

緊急事態宣言による営業時間短縮や外出自粛など、今まで当たり前だった日常が過ごせなくなりました。

しかし、顔を下げてばかりもいられません。

シャインカービングやニクサスなど、家で過ごす時間が長くなったからこそおすすめできる製品が義春刃物にもあります。

苦境をチャンスと捉え、今まで以上にアピールすることが大切。

このホームページでもたくさん紹介してきましたし、これからも魅力を発信していきます。

 

6年目(2021年)

(写真:だんだん職人の手になってきた気がする)

 

6年目ともなると、彫刻刀に切れ味を付ける作業も自分の思い通りにできるようになってきました。

1年目、2年目のときにあれだけ苦労した刃の表面を磨く作業も、無難にこなせるようになりました。

バフの整え方もだいぶわかってきました。

まだ理想には届きませんが、彫刻刀の刃にとって最適なバフ環境を少しずつ作り上げることができてきています。

 

 

それにしても、うまくできるようになると作業が気持ちよく感じますね。

そのおかげで、ものすごく集中して取り組むことができています。

作業中たまに、海の底に沈んだような感覚を得るほどの深い集中力を体験することもあります。

その状態で仕上げた彫刻刀は、やはり切れ味が良い気がします。

1年目から地道にコツコツ頑張ってきた成果を肌で感じることができるのは、とても嬉しいですね。

 

2022年、新章開幕

 

「職人のたまご」として駆け抜けてきた6年間。

成功と失敗を数えると、失敗のほうが圧倒的に多かったです。

でも、その失敗を経験し、試行錯誤をしてきたからこそ、今の自分の技術があると思います。

 

さて、この先はどんなプランで進むのか。

将来的にどんな職人になりたいのかを常に考え、目標に向かってひたすら突き進んでいきたいと思います。

目下、まずは目標を立てることから始めていきます。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。