こんにちは。
義春刃物の彫刻刀職人、奥村です。
今回は、「彫刻刀の正しい持ち方」をご紹介します。
「職人の私だったら、子どもにどう指導するか」
という視点でお話します。
小学校の先生が、初めて彫刻刀を使う児童に「正しい持ち方」を教えるためのひとつの指導例がわかる。
(※彫刻刀の持ち方は様々ありますが、今回ご紹介する持ち方は、あくまで一例です。すべて鵜呑みにせず、授業環境や児童の理解度に応じて、指導方法を組み立てることをおすすめします)
もくじ
小学生における彫刻刀の正しい持ち方
正しい持ち方の定義
彫刻刀の「正しい持ち方」を下記のように定義します。
- ケガをしないための持ち方
- 余計な力を加えなくても彫れる持ち方
指導上の重要なキーワードは、下記のとおりです。
- 鉛筆をにぎるように持ってみよう
- 彫刻刀をにぎった時の人差し指の位置
- 反対の手は刃の動く方向へ置かない
彫刻刀の正しい持ち方の指導例
実際の指導の流れをご説明します。
ステップ1 彫刻刀の基本の持ち方
それでは、持ち方の説明を始めます。
が!その前に…。
刃の部分には絶対に触らないでくださいね。
(どの部分が刃なのかを説明すると良い。柄の部分以外は刃と認識させる)
彫刻刀の持ち方シミュレーション
以下において、2つの指導パターンをシミュレーションしてみました。
どちらのパターンも本質は同じですが、言い回しを変えてみました。
指導パターン1
指導パターン2
パターン1と2の違いは、彫刻刀の刃を正面に向けるかどうかです。
正面に向けたほうが、人差し指の腹を彫刻刀の真上にピタッと置くイメージがわきやすいかもしれません。
- 「鉛筆を握るように」と言われても、そもそも正しい鉛筆の握り方ができているか、正しい鉛筆握りがどのようなものかを理解していない可能性があります。
- そのため、「鉛筆を握るように持ってください」といっても、通じないかもしれません。
- その場合、例えば、「彫刻刀の柄の部分をつまむように持ちましょう」というように、言葉の言い回しを変えると良いでしょう。
ステップ2 彫刻刀を正しく握れているかの確認
(写真:ギュッと握らせないこと)
※鉛筆にぎりをした時に、人差し指が曲がりすぎていると、刃の表面を板に乗せづらくなります。
- 軽く握らせる
- 人差し指を少し伸ばす
という言葉がけが有効かと思われます。
ステップ3 反対側の手を置く位置
(写真:彫刻刀に手を添えても良い)
※もしくは、反対の手を彫刻刀に添えるように指導してもよいと思います。その際は、添えるほうの手が刃に触れないように、柄の部分に手を添える指導をすると良いでしょう。
彫刻刀の持ち方の説明
上記で説明した内容を、文字列だけのセリフにしてみました。
- ケースの中から、平刀を取り出してください。
- まず、彫刻刀の刃には、表と裏があります。
- 刃の形が付いているほうが「表」。
- その反対側が「裏」です。
- それでは、持ち方の説明を始めます。
- が!その前に…。
- 刃の部分には絶対に触らないでくださいね。
- 彫刻刀を、両手で持ってください。
- 両手で持ったら、刃の裏を天井に向けてください。
- 利き手で、鉛筆を持つように握ってください。
- 握る位置は、(柄の)真ん中よりも少し前を持ちましょう。
- 刃の裏が天井を向いていますか?
- 人差し指の腹が柄の真上の部分にピタッと当たるように持ちましょう。
- 人差し指が横側に当たっていたり、柄を指で巻き込んではいけません。
- 片手で持ってみましょう。
- はい、これで彫刻刀の正しい持ち方の完成です。
- 彫刻刀を、両手で持ってください。
- 両手で持ったら、刃の裏を天井に向けてください。
- 両手で持ったまま、彫刻刀の刃を前方に向けましょう。
- 刃の裏がちゃんと天井に向いていますか?
- そうしたら、利き手で鉛筆をにぎるように軽く持ちましょう。
- このとき、人差し指の腹を彫刻刀の真上にピタッと置きましょう。(彫刻刀の一直線上のところに置きましょう)
- 握る位置は、柄の真ん中よりも少し前を持ちましょう。
- 片手で持ってみましょう。
- はい、これで彫刻刀の正しい持ち方の完成です。
- 彫刻刀を軽く握ったまま、刃の表を板の上に置きましょう。
- 板に刃を置いたら、彫刻刀を持った人差し指で、板を軽く押してみてください。
- 上手く押すことができていれば、正しい持ち方ができている証拠です。
- 「彫刻刀を持っていないほうの手」をどうするのかを説明します。
- 必ず守ってほしいこと!があります。
- それは、「刃の動く方向に手を絶対に置かない」ということです。
- 手が彫刻刀よりも前に出ていると、彫っているときに刃が指に刺さってしまう危険があります。
- なので、彫刻刀を持っていないほうの手は、常に刃の後ろに置くようにしましょう。
ステップ4 補足事項
彫刻刀の刃を立てない
(写真:ギュッと握らない)
木版に対して刃の角度が大きいと、彫っている最中に引っかかりが生じることがあります。
- 彫刻刀をギュッと握りすぎると、刃の角度が大きくなってしまいがちです。
鉛筆を軽く握るように意識させると良いでしょう。
刃の動く方向は常に前方を意識させる
(写真:常に前方に彫る)
彫る向きは、前方が基本です。
明らかに横向きに彫っていたり、自分の体のほうへ向かって彫るのは大変危険です。
カーブを彫るときは、ある程度彫り進めたら、板を回転させてまっすぐ彫れるようにしましょう。
彫るときはゆっくり彫る
(写真:力を入れなくてもスムーズに彫れる)
彫刻刀は、大きな力を加えなくても彫ることができます。
なので、グッと力を入れて彫る必要はありません。
正確に、気持ちよく彫るために、ゆっくりと彫るように心がけると良いでしょう。
「押すようにして彫る」ことを意識づけると良いかもしれません。
木くずの処理
(写真:木くずをしっかり処理すること)
彫っていると、木くずがたくさん出ます。
その木くずが、木版と机の間に入り込むと、木版が滑りやすくなります。
また、木くずを床に払ってしまうと、歩いているときに踏んだとき、滑って転んでしまう可能性もなくはありません。
したがって、木くずが出たらすぐに捨てられるように、机の上に小さなゴミ箱スペースを作ると良いかと思います。
小学生の子どもの立場で考える
(写真:子どもは大人の想像を超える)
初めて彫刻刀に握る児童にとっては、すべてが初めての体験です。
大人にとっては当たり前のことでも、子どもにそれが通用しないかもしれません。
したがって、用心に越したことはありません。
くどいと思われるくらいに丁寧に、指導や言葉がけをすることをおすすめします。
最後までお読みいただきありがとうございました。