童話「ウサギとカメ」のあらすじ通りにはいかない彫刻刀職人の世界【職人のたまご日記】

こんにちは。

職人のたまご、奥村です。

 

今回は、プチ実験を行いました。

その結果をご報告します。

 

はじめに

僕が所属する仕上げ室では、彫刻刀に切れ味をつける大事な作業を行っている。

1本1本を手作業で切れ味をつけている。

 

(写真:バフに刃先を当てることで切れ味が付く)

 

しかしながら、手作業ゆえに、1日に仕上げられる本数には限りがある。

そこで職人は、いかに大量に生産できるかを常に考えている。

 

僕自身も様々な工夫によって、作業スピードを速めてきた。

しかしまだまだ、改善の余地はあると見受けられる。

 

そこで今回は、作業スピードを早めるための方法が妥当かどうかを実験してみることにした。

具体的には、「彫刻刀を手に束ねる」という動作スピードに着目した。

実験方法

まず、彫刻刀の仕上げ工程には、いくつかの動作に分解できる。

  1. 彫刻刀を束ねる。
  2. 彫刻刀をヤットコにはさむ。
  3. バフに彫刻刀を当てて、仕上げる。

 

この手順が、彫刻刀を仕上げる一連の動作である。

(手順1:彫刻刀を束ねる)

 

(手順2:やっとこに彫刻刀をはさむ)

 

(手順3:バフに彫刻刀を当てて切れ味をつける)

 

今回の実験では、1番目の「彫刻刀を束ねる」のやり方に着目した。

従来の束ね方

(写真:バラバラの彫刻刀を手に束ねる)

 

従来は、木箱の中に散らばっている彫刻刀を、数十本束ねて手に持ち、仕上げの作業を行う。

そして、手の中にある彫刻刀をすべて仕上げ終えたら、また木箱から彫刻刀を束ねて手に持つ。

この繰り返しである。

 

しかし、1回1回彫刻刀を束ねて、なくなったら再度束ねるという方法は、非効率的のような気がする。

新しい束ね方

(写真:あらかじめキレイに並べてから仕上げる)

 

そこで、木箱にバラバラになっている彫刻刀を、あらかじめキレイに並べておく。

そうすることで、サッと彫刻刀を手に束ねて、次の動作に移ることができると考えた。

 

束ねる動作は、従来と変わりはないが、彫刻刀がそろっている分、手に束ねやすく、一束を仕上げ終える時間は、少なくとも5秒は短縮できると考える。

比較方法

従来の束ね方と新しい束ね方を用いて、実際に仕上げ作業を行ってみる。

その際、仕上げる本数など、条件をそろえるよう留意した。

(ちなみに企業秘密上、本数はα本とする)

 

なお、新しいやり方の、あらかじめキレイに並べる時間もカウントする。

すべて仕上げ終えるまでの時間を計測し、違いを比較してみた。

結果

結論から言うと、従来の束ね方と新しい束ね方。

仕上げ終える時間は同じだった。

つまり、α本を仕上げるのに、従来と新しい束ね方は、どちらも同じ時間かかったということである。

 

かかった時間は、両方とも80分

しかし内訳は、やや異なる。

 

(表:従来と新しいやり方の時間の内訳)

 

表のように、新しい束ね方のほうが、バフに当てる時間が従来よりも10分短いのがわかる。

その代わり、最初にきれいに並べる時間が10分かかっており、合計で80分ということである。

一方、従来のやり方では、新しいやり方に比べ、バフに当てる時間が10分余分にかかっている。

 

トータルの仕上げ時間は同じなのだが、内訳が違う。

はたしてこのことが、仕上げ作業にどのような影響を及ぼすのか、考察してみる。

考察

僕の仮説では、「新しい束ね方で仕上げ作業をしたほうが、従来のやり方よりも、仕上げ時間を短縮できる」と考えた。

仕上げ時間を短縮できれば、余った時間を使って、さらに彫刻刀を仕上げることができる。

 

しかし実験の結果、従来のやり方、新しいやり方どちらも、仕上げ終える時間が同じだった。

このことは、僕の仮説が棄却されたことを意味する。

つまり、彫刻刀をあらかじめキレイに並べて、サッと束ねられる新しいやり方でも、木箱にバラバラに置かれた彫刻刀をちまちま束ねる従来のやり方でも、仕上げられる本数と時間は同じということである。

 

しかし、トータルの仕上げ時間は同じでも、内訳が違った。

新しいやり方のほうが、「バフに彫刻刀を当てる」という正味の時間が、従来よりも10分短くなっていた。

 

このことは、何を意味するか。

僕の考察だが、体感スピードが変わってくると考える。

 

新しいやり方では、次々と彫刻刀をバフに当てることができる。

つまり、彫刻刀1束から次の1束までの間が短いため、リズムよく作業できる。

すると、リズムが作られ、気持ちよく作業ができることがわかった。

 

一方、従来のやり方では、1束なくなったら、再度彫刻刀をちまちまと手に集めなければならない。

僕はこれがわずらわしいと感じていた。

リズムが途切れ、気持ちよく作業ができなかったのである。

そこで、今回の新しい束ね方を考案したのだ。

 

結果、かかった時間は、同じだったが、リズムよく作業できるのは、新しいやり方のほうだった。

ただし、ひとつだけ、新しいやり方にも欠点がある。

 

それは「疲労の蓄積具合」である。

次から次へと作業ができるので、休憩する暇がなくなる。

 

従来のやり方は、彫刻刀を束ねている時間が小休憩になっていた。

実際、新しいやり方で作業をしていたほうが、疲労感が濃かった。

 

まとめると、仕上げる時間が変わらないということは、従来のやり方でも、問題ないといえる。

リズムを取るか、小休憩をとるか。

悩みどころである。

ウサギとカメの童話

 

この実験をしたときに、「ウサギとカメ」の童話を思い出しました。

お話では、最終的にのろまのカメが勝ちますよね。

どんなに遅くても、確実に歩みを進めれば、大きな成果が出るというイイ話。

 

僕の実験では、「新しいやり方」はウサギ、「従来のやり方」はカメでした。

結果、職人ウサギと職人カメは同着という結末になりました。

 

僕としては、職人ウサギが勝つと思っていましたが、ふたを開けてみれば、職人カメも負けてはいませんでした。

やはり、やってみなければわからないですね。

良い実験ができました。

 

生産性を高める方法は、まだたくさんあるはずです。

今度はどんな実験をしてみようかな、と思う次第。

 

 

なんだか今回は、堅苦しく、わかりにくくなってしまいましたね。

申し訳ありません。

自己満足なので、勘弁してくださいまし。

ほじゃ、今回はこのへんで。